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■ハマグリ養殖

 『農業経営者』という月刊誌の2000年3月号に掲載された筆者の記事「この人この経営第9回」に加筆し(8年後の現状を最後に)、鹿児島県南大隅町の「株式会社シーアグ・ジャパン」の頑張りを紹介します。会社の事業は、海水を揚水しての陸上でのハマグリ養殖やネギ栽培。テレビでも取り上げられた注目の事業をやるのは、肥後隆志さん(56歳)。

 鹿児島県の南端に2つの半島が伸びている。その東側の半島・大隈半島の最南端に位置する南大隅町(旧根占町)――。半島の沖を流れる黒潮の支流が湾内に流れ込み、温暖湿潤な気候を作っている。
 長らく過疎に現れ、農漁業ともに奮わなかった町にいま、日本中の注目を集める新しい漁業が興りつつある。
 海水で珪藻を増殖しハマグリの陸上養殖をする事業だ。これとネギ栽培を2本柱に新しいパターンの地域おこしを目指すのは肥後隆志さん。
 ”平成の西郷さん”と呼びたくなる押し出しの薩摩隼人が、湾奥の桜島の噴煙を見ながら描く構想は壮大だ。

● 新種の珪藻を増殖し水槽中で養殖
大学を出て神奈川県でサラリーマンをしたのもつかの間、父親の死で家業のガソリンスタ
ンドを経営するため帰郷した肥後さんは、ビジネスホテル経営、農産物流通などを手がけながら考えた。「根占で事業をし町勢を立て直したい。それには地の利を活かし第一次産業で勝負するしかない」と。
農業は素人だったが、生産者たらんとし、通年出荷できる小ネギと取り組んだ。5年間や
り、ようやく軌道に乗り始めた95年5月、「ハマグリ事業」の話が舞い込み、大転機が訪れた。
その話から先に始めよう。それは、大手機械メーカー鹿児島支店のI支店長が持ち込んだ
情報だった。米国フロリダの会社が新種の珪藻(植物性プランクトン)を増殖し、ハマグリなど二枚貝の餌にする特許を取って売り出しているというのだ。
「おもしろい!」。第一次産業の革命的ネタはないかと探していた肥後さんのアンテナが
ピピッと反応した。町内のヒラメ養殖家とI支店長と3人ですぐフロリダの「SAI社」へ飛んだ。
その珪藻は、三大有用藻といわれるスプルリナ、ドナリエラ、クロレラに匹敵する新種で、
数ミクロン。成分はビタミン、蛋白、不飽和脂肪酸に富み二枚貝の餌に絶好という。CO2(二酸化炭素)と太陽光があれば無尽蔵に増殖できるのが何よりの強みだ。ハマグリは高級貝だし、国内消費の95%は輸入品。「それならこの珪藻で養殖業がやれる」と判断した肥後さんはこの珪藻のアジアでの使用権を買い取ることにした。
カプセル入りの”原藻”を持ち帰り、ヒラメの養殖家から養殖槽を借り海岸にすえつけて養殖を始めたのは、それから5ヵ月後のことだった。沖合の海底をボーリングして海水を取水し、水槽中にボンベのCO2を注入、珪藻が太陽光を受けて増殖するという仕掛け。ハマグリは網状の平たいケースに入れ、水槽に何段にも重ねておく方式なので、海底での養殖と違い管理も楽だし、砂をかまない高級貝となる。こうして世界初の陸上でのハマグリ養殖がスタートしたのである。

● 養殖用の貝は中国・北朝鮮から輸入
養殖用のハマグリは初め、地元の魚市場から3cmほどの貝を7千個買った。これを1ヶ月養殖すると、平均2割も太った。手ごたえ十分だ。特許を持つSAI社の技術者、Dr.Jベネマンさんもやってきて、環境や設備に太鼓判を押してくれた。
これが95年12月31日付けの南日本新聞の第1面記事になり、画期的な事業と評価された。以後、稚貝、成貝を中国や北朝鮮から直接買い付けるなど事業は本格化。2年ほど経ち夏に輸出国を訪ねると、30度を超す戸外でハマグリの出荷作業が行われているのを発見、これでは搬送中に弱ってしまうからと、ただちに作業を改善させ、貝の死滅率低下に結びつけた。他にも養殖貝の密度とかCO2の混入度合いなど試行錯誤を重ねて一つ一つ問題点を克服していった。
98年3月、肥後さんはI支店長などに働きかけて9人で2300万円を出資、ハマグリ事業のための会社「シーアグ・ジャパン」を設立した。98年度、1億1千万円を売った。従業員は3人、まだ十分な給料は払えないが、黒字決算となった。

● 稚貝を自給生産、5年後に30億円
肥後さんはこの2月にも中国のアモイに行った。ハマグリは海岸から2km沖で細々と穫
っている有様で、それでも乱獲による資源枯渇がひどいという。だから中国でも北朝鮮でも、輸出能力がなくなるのは時間の問題と見ている。市場価格も上がるだろう。かくして5年後、自社の生産量を上げ、販路を拡大して売り上げ30億円を目論む。
 生産量アップの決め手は自ら稚貝を生産すること。ハマグリは稚貝を2cm大ぐらいまで育てるのが難しく、日本にはいない技術者をアメリカから連れてきて、稚貝の”自給体制”を何としても実現する構えだ。そのための実験棟を、99年12月に新設した養殖棟の隣に県の補助1000万円を得て建設中で、着々と手を打っている。
 ハマグリは1.5kgで3000円(S)~5000円(L)。全国の高級料亭やレストランのほか個人客へ産直している。インターネット通販もしており、販売力強化にもぬかりはない。
 シーアグのこうしたチャレンジは、県内外の耳目を集めている。鹿児島半島の頴娃町は98年に4億円を投じて養殖池を建設、町営の事業としてハマグリ養殖を始めた。販売額の一部をロイヤリティとしてシーアグに払う約束だが、町の将来をハマグリにかけたといえるほどの意気込みなのだ。

● 最後のターゲットは乾燥飼料の製造
この珪藻は、もっと大きな可能性を秘めている。肥後さんが着目しているのは、これを畜
産の飼料にできないかということだ。すでに珪藻を乾燥させて試作品も作ったといい、前述の実験棟が完成し次第、本格研究を始める。「最後のターゲットは飼料の開発。ハマグリの100倍の事業規模は間違いない。なにとかして成功させたい」と肥後さんは並々ならぬ意欲を見せる。
 日本の畜産が、いや世界の食糧事情が一変する壮大なプランといっていい。ベンチャー・キャピタルから投資話が舞い込んでおり、肥後さんはシーアグの株式上場を検討し始めているという。

● ネギのパッキングはお年寄りの内職
もう一つ、小ネギ栽培を見よう。通年出荷できるからと生産し始めたのが1987年。初め
15a程度だった栽培面積はいま3・5ha(ほとんど借地)。「有限会社ねじめ農園」となり、従業員6人を抱え、年商1億円を上げる事業に育った。ハウスでの完全有機栽培(ごくたまに殺菌剤を使う低農薬。除草剤は不使用)の小ネギは、日持ちがよく、おいしいと好評で、大半を年間契約で産直している。年4作のノウハウを確立しており、5年後には10haまで栽培面積を広げ、いまの3倍の売り上げを目指す計画だ。
13年前、ネギを始めたとき肥後さんはズブの素人。隣の佐多町で畜産をやる友人から牛
糞・豚糞をもらって生のまままいて発芽しないヘマもやった。そこから3.5haの栽培規模までたどり着いた原動力は何だったのだろう?
「失敗に学びながら、どうやったら本当の利益を生み出せるかと考え続けたこと」と肥後
さん。ネギ栽培の前の野菜流通業時代のこと、自分の”取次ぎ”が他よりちょっと単価が安いと、翌日はもう自分との取引をやめてしまう生産者を見て、目先の損得ではない信頼の大切さを痛感したが、その体験はいまの年間契約方式に生きている。
 地域の農業が永続的に存立しうる途を追い続けてきたのである。
 肥後さんの、地域の人たちを大事にする気持ちは人一倍強く、ネギの出荷の最後の作業である袋や箱詰めは、町内の40人ほどの主婦や高齢者の仕事として発注している。50g1袋を詰めると10円の手間賃といった具合で、最高齢の84歳のお年寄りが月4万円も稼いでいるという。
 稚貝自給のハマグリ事業と、飼料化がターゲットの珪藻事業が実現し、ネギと合わせて農漁業3本柱が完成するときには、地域の人たちの労働の場はもっと広がっているだろう。

● 新たにサツマイモやその苗の生産販売へ多角化して
その後の、シーアグはどうか。稚貝の自給に全力で取り組んできた。アメリカから技術者
も呼び、2億円もの研究開発費をつぎ込んだが、年間1万個ぐらいの生産技術しかまだ得られていない。しかし、その壁を破るノウハウ確立までもう一歩、というところまで迫っているという。飼料の研究も思いのほか難しいという。
 ハマグリ養殖は、稚貝の海外調達が資源的に困難で、期待していた10億円単位の年商へのステップは足踏み状態だという。将来へ備えての技術開発を優先しているのだ。
 このため、事業の多角化を図っている。4、5年前からサツマイモの苗を全国各地へ販売し、07年は約100万本(ベニサツマ)売り、1000万円近い売り上げとなった。ほかにサツマイモも生産販売している。また農産物や黒豚(肉)を買い取り、物販する事業展開も図っている。
 農村の高齢化のスピードは速く、不耕作地がどんどん増えており、農業を取り巻く環境は厳しいが、肥後さんは「それを逆手に取ってみれば、競争相手は少なくなるし、農地はやりたいだけ確保できる時代」と前向きに捉える。東京などの会社勤めをしていた息子たち3人が相次いでUターンし、故郷での農漁業にかけることになったそうだ。「彼らの世の中を見る目は正しい。帰ってきて良かったと思える事業に成長させたい」と話す。
 07年12月にシーアグの事業が12chで全国放送された。また同月、村落研究学会の研究会が地元で開催され、全国から大学人や公務員など数百人がハマグリ事業の展開を見学し議論した。肥後さんにとっては、これらは大きな追い風であり、「なんとしてもいくつかの壁を破ってブレークしたい。見てて下さい」と豪快に笑うのである。
※ 同社のHPは以下。URL:http://www.sea-ag.com    Email:info@sea-ag.com

■ 乳製品カルシウムで脳卒中予防! という新聞記事に着目(08/07/31)

  朝日新聞08年7月30日の記事です。乳製品や煮干などが有用なカルシウム源であること
は周知の事実です。ただ私は、牛乳はカルシウムの吸収率が良くないと聞いていたこともあり気になっていましたが、この記事では、牛乳も含めて良いと。カルシウムを、白紙の状態で見直すことにし、この欄で追いかけます。[カルシウム特集]としてナンバーリングして。

記事は、以下の通りです。
   カルシウムを乳製品で多くとる人は脳卒中になりにくいことが、厚生労働省研究班(主任研究者・津金昌一郎国立がんセンター予防研究部長)による約4万人規模の調査で分かった。摂取の多いグループは、少ないグループより脳卒中になる確率が3割ほど低かった。
  大阪大の磯博康教授らが岩手、秋田、長野、沖縄各県の40~59歳の男女を対象に90年から約13年間、追跡調査。食生活を尋ね、カルシウム摂取量を推計した。期間中に脳梗塞や脳出血など脳卒中を発症したのは1321人だった。
  乳製品による摂取量で5グループに分けると、最も多いグループ(1日当たり約120ミリグラム)は、最も少ないグループ(同0ミリグラム)に比べて発症リスクが0・69倍と低くなった。
  総カルシウム摂取量でも、多いグループ(同750ミリグラム)と少ないグループ(同230ミリグラム)で同様の結果だったが、乳製品以外からの摂取量が増えても明らかな効果は見られなかった。
  磯教授によると、乳製品のカルシウムは吸収率が5割と高いのに、大豆類や野菜、魚介類などからは1~2割しか吸収できない。
  厚労省によると、カルシウム摂取は30~60代で1日600ミリグラムが目標。牛乳1本約200ミリグラム、ヨーグルト1個は約100ミリグラム、スライスチーズ1枚で約100ミリグラムが目安になる。(佐藤久恵)

■中国・台湾産ウナギの評価についての、土用丑の日を前にした面白い記事(08・08・01)

 毎日新聞08年8月1日朝刊の記事です。記者の目(小島正美記者)、という名物コラム。
長い記事なので、ダイジェストして紹介します。関心ある方は同朝刊4pをご覧下さい。
まず、見出し。「安い割には美味 中国・台湾産ウナギ」「国産に比べ不当な低評価」「稚魚激減の方が心配」・・・。良く知る記者の鋭い視点と鋭い分析で、共感できます。国産高すぎるから、やっぱり輸入ウナギ食おうか、と思わされます。ただし、記事も触れていますが、禁止薬品などの問題がクリアーされればのこと。まだまだ安心できない、という疑念も筆者(宮崎)は半面で抱いていますが、独自取材も含めて、今後フォローしていきます。余談ですが、中国の冷凍ギョウザ事件が収まりつつある中、本当の本当は何なのか、ということも知りたいじゃありませんか。それもフォローしていきたいと思っています。
さて、毎日の記事。要点は以下です。
① 海外のウナギ養殖に詳しい舞田正志・東京海洋大学大学院教授によると、国産ウナギと例えば台湾ウナギの見分けはつかない。味や品質については、個々の蒲焼店に聞くと「素人には分からないだろうが、中国・台湾産の方がやややや泥臭い」というし、東京都内でウナギの蒲焼店を経営もし品質に精通している三田俊介・東京鰻蒲焼商組合理事長は「味の好みは消費者によって異なるだろうが、特に国産の品質が優れているとは言えない」という。
②養殖の仕方に違いがある。日本ではハウス養殖されていて、ボイラーで温めた人口池に体調6センチ前後の天然ウナギの稚魚を入れ、約半年~1年育てて出荷される。餌はアジやイワシなどの魚粉。一方、中国・台湾のウナギは多くが露地の池で育てられる。加温しないで育つので期間は約1~2年と日本より長い。餌はスケソウダラなどの魚粉。土地代などが安いため、飼育密度は日本のハウス養殖の10分の1~20分の1である。
③そうした生産コストや人件費の高さが、価格差になっていて、末端の蒲焼だと、国産は1キロ約5000円なのに対し、中国・台湾産は約2000円と2倍以上の開きがある。
④稚魚は日本、中国、台湾ともフィリピン東方の北太平洋生まれで、遺伝子のDNAはいずれも同じである。
⑤ 中国産ウナギの一部から合成抗菌剤のマラカイトグリーンの代謝物が検出された問題があった。同剤は日本でも以前から使われ、法律改正で03年7月に使用禁止になった。中国でも3年前から禁止されたが、検出されたのはごく微量で健康に影響するレベルではなく、以前に使われていたものが池の底に残っていたか、水域汚染が考えられる。
この記事を読めば、確かに大きな価格差のあるウナギの蒲焼は、輸入物でもいいか、という気にさせられるのは筆者ばかりではないでしょう。8月5日のスーパーのウナギ売り場を注目してみたいものです。

■病気を治した凄いハナシ No.1

 身体が恒常性を維持する(健康を保つ)機能を、ホメオスタシスといいます。その能力をどうやって最大限に発揮させるか、それが病気を治すポイントです。医者の診断、治療、投薬が正しくなければならないことはいうまでもありません。でも、なかなか病気が治らないケースも多い。原因さえはっきりしないケースさえあります。
 逆に、驚異的にうまく病気が治った、という話もときどき聞きます。いったい私たちは病気にどう対していったらいいのでしょう?
それが私たちにとって、特に病気の人にとって最も重要なポイントです。ここでは、うまく病気が治ったという驚異的なケースを取り上げ、みなさんの参考に供したいと思います。
1回目は、08年2月に急逝された故早稲田大学名誉教授・元理工学部教授の小林寛先生の物理学者らしい病気の推理と助言によって、医者が”藪の中”しかつつけなかった(病状を正しくつかみきれなかった)病気を治したという青年の話です。言っておきますが、故小林先生は医療行為をされたのではまったくありません。科学的な思考に基づいて青年の病状を推理し、最後は医食同源の思想にそって”イリコと太陽”の暮らしを薦めて、青年の病気を治されたのです。先生は、「はかせ鍋」を発明(特許)された異色の学者です。※このサイトの「環境」項目の「温暖化防止」の欄でこの鍋の省エネ性能について紹介しています。

●先天性との診断は疑問
いまから20年近く前。長野県のある町に先生がはかせ鍋の講習会に出かけたとき、一人の母親から小学3年の息子T君の「先天性好中球減少症」という病気について相談を受けました。好中球は白血球のうちの顆粒球の一つ。これが極度に少ない病気で、T君は体の抵抗力が弱くすぐ風邪を引いたりし、ずっと医者にかかっており、「長生きできないのではないか」と親子で悩んでいるというのでした。
好中球は酸化酵素を多量に出し、バクテリアなど割りと大きい相手を焼き殺す働きをしますので、これが足りないと、細菌やウィルスを退治する能力が落ち風邪を引くのです。白血球はリンパ液など他の血液成分とともに骨髄でつくられますが、骨髄液の中でも白血球の中でも正常な子供なら、好中球は白血球中の顆粒球全体の25%前後を占めることがわかっています。
そこで教授が、T君の骨髄液に関する病院の検査について母親に聞くと、好中球は骨髄液中には顆粒球全体の32%あるのに、血液中には0~1%しかないという結果だったというのです。「ちゃんとつくられているではないか。なにが先天性なものか」というのが先生の直感でした。そして、「好中球が骨髄から出てこない病気だ」という医者の見立てにも先生は疑問を感じました。「好中球だけ通さないフィルターなど体の中にあるはずがない。骨髄から出てはくるが、毎日どこかでたくさん死滅しているに違いない。そう考える方が理にかなっている」と判断したのです。さあ、物理学者の理詰めの洞察と追究が始まったのです。

● 犯人はブドウ球菌だ!
そのプロセスは推理小説のようで面白いのですが、ここでは細部を省いて、先生がT
君の病気を完治させるまでに至る追究と対策のポイントだけを紹介することにしましょう。
 ①腸内細菌の中に好中球を大量に殺してしまう悪玉菌がいるのではないかと想定。それはブドウ球菌に違いないと狙いを定めた。『腸内細菌の話』(岩波新書、光岡知足著)に記された「ブドウ球菌は好中球が攻めてくると毒素を出す。好中球は辿りつく前に、その毒素で死滅する」という説がヒントに。
 ②ブドウ球菌は化膿菌の一種で、エサは肉などの動物性蛋白質だから、食事では肉類をやめ大豆などの植物性蛋白質と野菜を取り、併せてビフィズス菌を毎日飲むように指示。1か月半たち、血液中の好中球の比率が9%になった。
 ③続いて、骨を丈夫にし骨髄機能を強化することを目論み、炒ったイリコを毎日ひとつかみずつ食べ、1週間に2回以上、日光浴(ビタミンDを生成し骨へのカルシウムの吸収を助ける)をするように指示。数ヵ月後に好中球が24%に。
 ④同じ養生を続け、半年後、好中球は32%に。正常値の25%を超えたのは、それまでどんどん討ち死にしていた好中球を埋め合わせしようと骨髄が懸命に増産した結果だろうと推定。やがて好中球が死ぬ原因が取り除かれれば正常値に戻ると見当を付けた。
 ⑤予想した通り1年半後、正常値の26%に下がった。

●ホメオスタシスの働き
 好中球が徐々に増えたこと、さらに増えすぎたものの穏やかに正常に戻ったこと、これはともにホメオスタシス(恒常性維持機能)の働きを物語るものです。一時期増えすぎてから元に戻るとは、なんと精妙な(人間くさくもある)営みなのでしょう。
 ともあれ、ホメオスタシスのおかげでT君の”虚弱体質が一掃され、その後、T君が元気な子になったのはいうまでもありません。

●抗生物質のせいでビフィズス菌が減った
 問題は、なぜブドウ球菌がT君の腸内で勢力をもってしまったか、その原因追究が先生の最後の仕事でした。母親に聞くと、3歳のとき40度Cの高熱を出し、市立病院で耐性検査をしながら1ヶ月以上もとっかえひっかえ抗生物質を飲まされた結果、熱は下がったものの、それ以降、T君は病気の問屋さんみたいになってしまったこと分かりました。通常、体内に細菌が入ってきても、たいていは胃酸がやっつけてしまうのですが、T君の場合はどうやら生まれつきの胃酸過少症でもあったようです。そんな体質のT君が抗生物質を飲み続けたため、お腹の中のビフィズス菌が減って、耐性をもった一番悪い悪玉菌、ブドウ球菌が残ってしまった、というのが先生の推論でした。

●肉を食べ過ぎるな、便の臭さに気をつける
 だから、胃酸過少症のT君に先生は、次のような生活上の注意を授けました。「肉を食べ過ぎてはいけない。トイレで便の臭いをいつもチェックしなさい。便が臭くなったら、半日以上前に食べた肉の量が多すぎて腸内で腐っている証拠。腸内の状態を健全に維持するために、食事では特に肉の量をきちんと管理しなさい」
 T君の病状の正しい把握が専門の医師によってなぜできなかったのでしょうか? 思うに、医者の常識(慣れ)が本質を見ぬく力(感性)をいつの間にか奪ってしまったのではないだろうか、3時間待ち(待たせ)3分診療の現実が、医者に通り一遍の診療を余儀なくさせ、薬頼りに走らせているのではないだろうか? そう思ってしまうのですが、どんなものでしょうか。
 本来的には、医者は正しく診察して、最適の薬(治療法)を出すべきですが、現実にはそうとは限りません。基本的に私は医者をそう見ています。故小林先生のような知識はありませんが、だからなおさら自分でできる範囲内で医食同源の道を追究することが現代人には必要なのかな、と思っています。3時間待ち3分診療が現実ですから。
※この話は、故小林先生ご存命中に、先生から直接何度となくお聞きしたものです。 
(文責 宮粼隆典)

 

■ 温暖化防止

地球温暖化をどう防ぐか。08年7月、北海道洞爺湖畔で主要国首脳会議・洞爺湖サミットが開かれ、主要8カ国は、2050年までに温暖化ガスの排出量を地球上で半減する目標を世界で共有することで合意し、温暖化防止へ向けての世界的な取り組みが強化されることになりました。しかし、先進国と途上国の間には、途上国側に経済発展を優先させたい願望があるため、温暖化対応への”温度差”が大きく、しかも、リーダーシップを期待されるアメリカが腰を引き気味であることもあって、温暖化防止へ向けての世界の取り組みは一直線とはいかないのが実情です。北極の氷山の溶解を即刻押し留めなければ地球の未来はないというのに、実に情けないことです。北極と言わず、私たちの身の周りで異常気象や動植物相の異変が急速急激に進行してもいます。私たちは、温暖化ストップのための技術やシステムの開発・研究を進めつつ、自分たちにできる温暖化抑制のための小さな努力を積み重ねていくしかありません。
08年は、08年から12年までの期限で各国の二酸化炭素の削減目標(日本は6%)を決めた「京都議定書」実施の初年度にも当たります。国内では政府主導で夏のクールビズ・冬のワームビズのような省エネにつながる服装の運動や、オフィスの冷暖房温度の「チーム6%」などと呼ぶ冷暖房我慢運動も展開され、盛り上がりを見せています。しかし、どのセクター(部分)でもまだまだ不十分です。このコーナーでは、各所での意欲的な取り組みや、新しい手法、注目される技術などの情報を紹介していきます。

【1/3のエネルギー使用で済む「はかせ鍋」No.1】
環境問題はどれも、市民一人一人の、あるいは一戸一戸の家庭の取り組みが大切です。それはみんなが分かっているのですが、温暖化防止というとテーマが大き過ぎるのか、あるいは抽象的過ぎるのか、家庭での取り組みはあまり熱心とは言えないようです。
料理の際のガスが通常の料理法の3分の1で済む「はかせ鍋」という鍋があることをご存知でしょうか? その鍋こそ国民的運動で普及させたい第一級の省エネグッズだ、と筆者は入れ込んでおります。第1回目は、この鍋の紹介です。

この鍋は、もう22年も前1986年に、早稲田大学理工学部の応用物理学が専門の小林寛教授(08年2月他界)が発明し特許を取得、製品化されたものです。写真で見る通り、ステンレス鍋の周りに、一回り大きいステンレスの円筒を装着するという単純な構造で、円筒を履かせる形になるところから「はかせ鍋」と命名されました。
たとえばこの鍋で煮物を作るとき、円筒を装着し、鍋の水が沸騰したら、火を止め、あとは平らな調理台の上に鍋をおいておけばいいのです。
鍋の側面と円筒との間の空気層(1cm程度)が断熱(保温)の効果を発揮し、あとは一定時間置いておくだけで料理が出来上がるというわけです。蓋は、まずガラス蓋があり、その上からステンレスの蓋を被せる構造になっています。鍋は平らな台の上に置くため、鍋の上下・側面全体で熱を逃がさない仕組みになっているのです。
二重の蓋・二重の側面の保温性能は驚くほど高く、なかなか冷めません。これこそが、水が沸騰したら火を止め、放っておいて調理ができるポイントなのです。
料理の鍋ですが、故小林教授は、製品を使ってさまざまな食材を煮る実験を行い、データを出しています。著書『お鍋にスカートはかせて おいしさ大発見』(光文社)で公表されているその数字(図)は本当に驚きです。
筆者は、教授がこの鍋を発明されたしばらく後にご面識を得て、その後は長く「男の料理教室」などで一緒に料理をして飲食を楽しんできました。筆者が一番感動したのは、小豆が沸騰後放りっぱなしで1~2時間(95度C)で煮えるのを実体験したことです。これには本当に驚きました。というのは、小豆や大豆をガスで煮ようものなら、火をつけっ放しにしグツグツと1時間も2時間も煮なければならないからです。それと比べ、はかせ鍋は圧倒的に少ないエネルギーで済むのです。
多くの野菜類は3分の1のエネルギーで間に合うというデータが出ています。小豆や大豆はさらにその半分ぐらいのエネルギーで済むというわけです。
驚くべきは、省エネだけではありません。味もこのはかせ鍋調理法で料理した方が圧倒的においしいということです。
いや本当です。帝国ホテルの、いまは亡き村上信夫料理長もそれを認め、ベタ褒めだったということす。
省エネのこと、はかせ鍋での各種料理の調理法、おいしさの科学的証明などを、連載で順次紹介していきます。
※ はかせ鍋は、もう特許が解除されています。故小林教授夫人の正恵さんが社長の「キッチンサイエンス研究所」(電話042-472-1071)で買えます。はかせ鍋に関する本を写真でご紹介しておきます。

         煮えるのに必要な温度と時間

    食品名

   温度

   時間

98度C以上

15~20分

芋類

85度C以上

15~20分

枝豆・空豆等

85度C以上

15~20分

黒豆・大豆・小豆等

95度C以上

~2時間

大根・人参・ゴボウ

85度C以上

15~20分

肉類

75~80度C以上

15~20分

乾燥スパゲティ

90度C以上

10~15分

乾燥うどん・そば

90度C以上

10~15分

(『お鍋にスカートはかせておいしさ大発見』より)