地球温暖化をどう防ぐか。08年7月、北海道洞爺湖畔で主要国首脳会議・洞爺湖サミットが開かれ、主要8カ国は、2050年までに温暖化ガスの排出量を地球上で半減する目標を世界で共有することで合意し、温暖化防止へ向けての世界的な取り組みが強化されることになりました。しかし、先進国と途上国の間には、途上国側に経済発展を優先させたい願望があるため、温暖化対応への”温度差”が大きく、しかも、リーダーシップを期待されるアメリカが腰を引き気味であることもあって、温暖化防止へ向けての世界の取り組みは一直線とはいかないのが実情です。北極の氷山の溶解を即刻押し留めなければ地球の未来はないというのに、実に情けないことです。北極と言わず、私たちの身の周りで異常気象や動植物相の異変が急速急激に進行してもいます。私たちは、温暖化ストップのための技術やシステムの開発・研究を進めつつ、自分たちにできる温暖化抑制のための小さな努力を積み重ねていくしかありません。
08年は、08年から12年までの期限で各国の二酸化炭素の削減目標(日本は6%)を決めた「京都議定書」実施の初年度にも当たります。国内では政府主導で夏のクールビズ・冬のワームビズのような省エネにつながる服装の運動や、オフィスの冷暖房温度の「チーム6%」などと呼ぶ冷暖房我慢運動も展開され、盛り上がりを見せています。しかし、どのセクター(部分)でもまだまだ不十分です。このコーナーでは、各所での意欲的な取り組みや、新しい手法、注目される技術などの情報を紹介していきます。

【1/3のエネルギー使用で済む「はかせ鍋」No.1】
環境問題はどれも、市民一人一人の、あるいは一戸一戸の家庭の取り組みが大切です。それはみんなが分かっているのですが、温暖化防止というとテーマが大き過ぎるのか、あるいは抽象的過ぎるのか、家庭での取り組みはあまり熱心とは言えないようです。
料理の際のガスが通常の料理法の3分の1で済む「はかせ鍋」という鍋があることをご存知でしょうか? その鍋こそ国民的運動で普及させたい第一級の省エネグッズだ、と筆者は入れ込んでおります。第1回目は、この鍋の紹介です。

この鍋は、もう22年も前1986年に、早稲田大学理工学部の応用物理学が専門の小林寛教授(08年2月他界)が発明し特許を取得、製品化されたものです。写真で見る通り、ステンレス鍋の周りに、一回り大きいステンレスの円筒を装着するという単純な構造で、円筒を履かせる形になるところから「はかせ鍋」と命名されました。
たとえばこの鍋で煮物を作るとき、円筒を装着し、鍋の水が沸騰したら、火を止め、あとは平らな調理台の上に鍋をおいておけばいいのです。
鍋の側面と円筒との間の空気層(1cm程度)が断熱(保温)の効果を発揮し、あとは一定時間置いておくだけで料理が出来上がるというわけです。蓋は、まずガラス蓋があり、その上からステンレスの蓋を被せる構造になっています。鍋は平らな台の上に置くため、鍋の上下・側面全体で熱を逃がさない仕組みになっているのです。
二重の蓋・二重の側面の保温性能は驚くほど高く、なかなか冷めません。これこそが、水が沸騰したら火を止め、放っておいて調理ができるポイントなのです。
料理の鍋ですが、故小林教授は、製品を使ってさまざまな食材を煮る実験を行い、データを出しています。著書『お鍋にスカートはかせて おいしさ大発見』(光文社)で公表されているその数字(図)は本当に驚きです。
筆者は、教授がこの鍋を発明されたしばらく後にご面識を得て、その後は長く「男の料理教室」などで一緒に料理をして飲食を楽しんできました。筆者が一番感動したのは、小豆が沸騰後放りっぱなしで1~2時間(95度C)で煮えるのを実体験したことです。これには本当に驚きました。というのは、小豆や大豆をガスで煮ようものなら、火をつけっ放しにしグツグツと1時間も2時間も煮なければならないからです。それと比べ、はかせ鍋は圧倒的に少ないエネルギーで済むのです。
多くの野菜類は3分の1のエネルギーで間に合うというデータが出ています。小豆や大豆はさらにその半分ぐらいのエネルギーで済むというわけです。
驚くべきは、省エネだけではありません。味もこのはかせ鍋調理法で料理した方が圧倒的においしいということです。
いや本当です。帝国ホテルの、いまは亡き村上信夫料理長もそれを認め、ベタ褒めだったということす。
省エネのこと、はかせ鍋での各種料理の調理法、おいしさの科学的証明などを、連載で順次紹介していきます。
※ はかせ鍋は、もう特許が解除されています。故小林教授夫人の正恵さんが社長の「キッチンサイエンス研究所」(電話042-472-1071)で買えます。はかせ鍋に関する本を写真でご紹介しておきます。

         煮えるのに必要な温度と時間

    食品名

   温度

   時間

98度C以上

15~20分

芋類

85度C以上

15~20分

枝豆・空豆等

85度C以上

15~20分

黒豆・大豆・小豆等

95度C以上

~2時間

大根・人参・ゴボウ

85度C以上

15~20分

肉類

75~80度C以上

15~20分

乾燥スパゲティ

90度C以上

10~15分

乾燥うどん・そば

90度C以上

10~15分

(『お鍋にスカートはかせておいしさ大発見』より)