■病気を治した凄いハナシ No.1

 身体が恒常性を維持する(健康を保つ)機能を、ホメオスタシスといいます。その能力をどうやって最大限に発揮させるか、それが病気を治すポイントです。医者の診断、治療、投薬が正しくなければならないことはいうまでもありません。でも、なかなか病気が治らないケースも多い。原因さえはっきりしないケースさえあります。
 逆に、驚異的にうまく病気が治った、という話もときどき聞きます。いったい私たちは病気にどう対していったらいいのでしょう?
それが私たちにとって、特に病気の人にとって最も重要なポイントです。ここでは、うまく病気が治ったという驚異的なケースを取り上げ、みなさんの参考に供したいと思います。
1回目は、08年2月に急逝された故早稲田大学名誉教授・元理工学部教授の小林寛先生の物理学者らしい病気の推理と助言によって、医者が”藪の中”しかつつけなかった(病状を正しくつかみきれなかった)病気を治したという青年の話です。言っておきますが、故小林先生は医療行為をされたのではまったくありません。科学的な思考に基づいて青年の病状を推理し、最後は医食同源の思想にそって”イリコと太陽”の暮らしを薦めて、青年の病気を治されたのです。先生は、「はかせ鍋」を発明(特許)された異色の学者です。※このサイトの「環境」項目の「温暖化防止」の欄でこの鍋の省エネ性能について紹介しています。

●先天性との診断は疑問
いまから20年近く前。長野県のある町に先生がはかせ鍋の講習会に出かけたとき、一人の母親から小学3年の息子T君の「先天性好中球減少症」という病気について相談を受けました。好中球は白血球のうちの顆粒球の一つ。これが極度に少ない病気で、T君は体の抵抗力が弱くすぐ風邪を引いたりし、ずっと医者にかかっており、「長生きできないのではないか」と親子で悩んでいるというのでした。
好中球は酸化酵素を多量に出し、バクテリアなど割りと大きい相手を焼き殺す働きをしますので、これが足りないと、細菌やウィルスを退治する能力が落ち風邪を引くのです。白血球はリンパ液など他の血液成分とともに骨髄でつくられますが、骨髄液の中でも白血球の中でも正常な子供なら、好中球は白血球中の顆粒球全体の25%前後を占めることがわかっています。
そこで教授が、T君の骨髄液に関する病院の検査について母親に聞くと、好中球は骨髄液中には顆粒球全体の32%あるのに、血液中には0~1%しかないという結果だったというのです。「ちゃんとつくられているではないか。なにが先天性なものか」というのが先生の直感でした。そして、「好中球が骨髄から出てこない病気だ」という医者の見立てにも先生は疑問を感じました。「好中球だけ通さないフィルターなど体の中にあるはずがない。骨髄から出てはくるが、毎日どこかでたくさん死滅しているに違いない。そう考える方が理にかなっている」と判断したのです。さあ、物理学者の理詰めの洞察と追究が始まったのです。

● 犯人はブドウ球菌だ!
そのプロセスは推理小説のようで面白いのですが、ここでは細部を省いて、先生がT
君の病気を完治させるまでに至る追究と対策のポイントだけを紹介することにしましょう。
 ①腸内細菌の中に好中球を大量に殺してしまう悪玉菌がいるのではないかと想定。それはブドウ球菌に違いないと狙いを定めた。『腸内細菌の話』(岩波新書、光岡知足著)に記された「ブドウ球菌は好中球が攻めてくると毒素を出す。好中球は辿りつく前に、その毒素で死滅する」という説がヒントに。
 ②ブドウ球菌は化膿菌の一種で、エサは肉などの動物性蛋白質だから、食事では肉類をやめ大豆などの植物性蛋白質と野菜を取り、併せてビフィズス菌を毎日飲むように指示。1か月半たち、血液中の好中球の比率が9%になった。
 ③続いて、骨を丈夫にし骨髄機能を強化することを目論み、炒ったイリコを毎日ひとつかみずつ食べ、1週間に2回以上、日光浴(ビタミンDを生成し骨へのカルシウムの吸収を助ける)をするように指示。数ヵ月後に好中球が24%に。
 ④同じ養生を続け、半年後、好中球は32%に。正常値の25%を超えたのは、それまでどんどん討ち死にしていた好中球を埋め合わせしようと骨髄が懸命に増産した結果だろうと推定。やがて好中球が死ぬ原因が取り除かれれば正常値に戻ると見当を付けた。
 ⑤予想した通り1年半後、正常値の26%に下がった。

●ホメオスタシスの働き
 好中球が徐々に増えたこと、さらに増えすぎたものの穏やかに正常に戻ったこと、これはともにホメオスタシス(恒常性維持機能)の働きを物語るものです。一時期増えすぎてから元に戻るとは、なんと精妙な(人間くさくもある)営みなのでしょう。
 ともあれ、ホメオスタシスのおかげでT君の”虚弱体質が一掃され、その後、T君が元気な子になったのはいうまでもありません。

●抗生物質のせいでビフィズス菌が減った
 問題は、なぜブドウ球菌がT君の腸内で勢力をもってしまったか、その原因追究が先生の最後の仕事でした。母親に聞くと、3歳のとき40度Cの高熱を出し、市立病院で耐性検査をしながら1ヶ月以上もとっかえひっかえ抗生物質を飲まされた結果、熱は下がったものの、それ以降、T君は病気の問屋さんみたいになってしまったこと分かりました。通常、体内に細菌が入ってきても、たいていは胃酸がやっつけてしまうのですが、T君の場合はどうやら生まれつきの胃酸過少症でもあったようです。そんな体質のT君が抗生物質を飲み続けたため、お腹の中のビフィズス菌が減って、耐性をもった一番悪い悪玉菌、ブドウ球菌が残ってしまった、というのが先生の推論でした。

●肉を食べ過ぎるな、便の臭さに気をつける
 だから、胃酸過少症のT君に先生は、次のような生活上の注意を授けました。「肉を食べ過ぎてはいけない。トイレで便の臭いをいつもチェックしなさい。便が臭くなったら、半日以上前に食べた肉の量が多すぎて腸内で腐っている証拠。腸内の状態を健全に維持するために、食事では特に肉の量をきちんと管理しなさい」
 T君の病状の正しい把握が専門の医師によってなぜできなかったのでしょうか? 思うに、医者の常識(慣れ)が本質を見ぬく力(感性)をいつの間にか奪ってしまったのではないだろうか、3時間待ち(待たせ)3分診療の現実が、医者に通り一遍の診療を余儀なくさせ、薬頼りに走らせているのではないだろうか? そう思ってしまうのですが、どんなものでしょうか。
 本来的には、医者は正しく診察して、最適の薬(治療法)を出すべきですが、現実にはそうとは限りません。基本的に私は医者をそう見ています。故小林先生のような知識はありませんが、だからなおさら自分でできる範囲内で医食同源の道を追究することが現代人には必要なのかな、と思っています。3時間待ち3分診療が現実ですから。
※この話は、故小林先生ご存命中に、先生から直接何度となくお聞きしたものです。 
(文責 宮粼隆典)