食アラカルト(2)

[食育が大事。さらに“生命教育”が大事]

◆『食道楽』という本があります。明治~大正時代に小説家・啓蒙家として名を

 なした愛知県豊橋出身の村井玄斎(1863―1927年)の著作です。村井は9歳

でロシア語を勉強し始めたそうで(東京外国語学校にも学んだ)、才気煥発な少年として成長し、明治の文明開化の奔流に乗り時代を代表する開明の文人だったようです・・・とは私の印象です。なにしろ開明派・村井は若いころから執筆欲旺盛。“百道楽”を書こうと構想メモを残していたそうで、道楽のテーマは釣、酒、読書、大弓、研究、玉突き、媒酌、囲碁、将棋、小言、芝居、謡、寄席、音曲、小鳥、自転車、骨董、書画、古銭、写真、旅行、猫、犬、小説、など森羅万象に及んでいたと、村井の子女・村井米子が中公文庫版『食道楽』に書いています(米子は父幻斎の著作の翻訳もした)。道楽の小説は『釣道楽』から始まり猟道楽→酒道楽→女道楽→食道楽と進み、どれも報知新聞に連載され大反響だったそうです。酒道楽では禁酒を勧め、女道楽は「人の罪なり」などと、“警句や人の道”も説いているのだそうです。連載作品は連載終結を待って次々と出版されて行き、現在『食道楽』は上の中公文庫版のほか、岩波文庫版(上・下)が膾炙しているようです。

◆『食道楽』は1903年(明治36)から報知新聞に連載されました。食通の登場

人物が当時の食材を輸入物も余すところなく取り上げ、料理を作りつつ食事の豊饒さや料理の面白さを、会話しながら食物語が展開する仕掛けになっています。胃と腸(胃吉と腸蔵)が会話する挿話もあり、食の体内での代謝についての食の科学も書いています。料理は今で言うレシピ付きで、玄斎は真に美味しい料理が出来るまで何度も試行錯誤を繰り返し物語りにした、と米子が明かしています。今日に通じるレシピであり料理が楽しくなると言っていい小説だ、と言えます。『食道楽』のタイトルに相応しい著作です。

◆中公文庫では、本文の初めに、次の注目すべき玄斎の一言があります。 

 「小児には、徳育よりも 智育よりも 体育よりも 食育が先 玄斎」

              (宮﨑記)