7月20日 How are you doing?
人生相談(案内)を、いま一度。
読売新聞7/20の人生案内、作家・久田恵さんの回答が心にしみます。
<質問>
在宅ワークの30代半ばの女性。小学校高学年の娘がいますが、子供のいな
い人生を想像してしまいます。
まだ子供を望んではいなかった20代前半に、娘を妊娠しました。出産し娘
が1歳の時に仕事に復帰しましたが、残業や休日出勤もある忙しさのなか、娘が
病気で入院するなど、大変でした。夫も仕事が忙しく、早朝から夜遅くまで不
在。ストレスがたまりました。
さらに、夫の転勤で私は仕事を辞め、家族で地方に引っ越しました。慣れな
い土地で育児と家事だけの日々が数年続き、不安と焦りで追い詰められた私は、
夫の会社に事情を話して元の勤務地に戻してもらいました。
私には、結婚後も共働きしてお金をため、大学に行くという夢がありました。
それが妊娠でかなわなくなりました。子育てが落ち着いた今、進学の希望をも
てばよいのですが、もうそんなエネルギーはありません。元気のない自分に失
望し、心が満たされない毎日です。
<回答>
計画通りにいかないのが、人生。誰の上にも予想しないことが降ってきます。
その中で、人はいろんな選択をして自分の人生を形成していきます。
選択のたびになにかを捨て、あきらめ、代わりになにかを得て、新しい目標
や夢をもつのです。その選択をしたのはあなた自身、誰のせいでもないのです。
にもかかわらず、失ったものを嘆いていたら、その時あなたが得たものの大事
さ、重要さには気づけません。
子育てと仕事の両立は、確実にあなたの力量を増したはずです。夫の転勤で
味わった焦りは、あなたに人生のなんたるかを教えたと思います。目標だった
大学進学への意欲がわかないのは、それがあなたを突き動かす夢ではなくなっ
たからではないでしょうか。
人生を元に戻すことはできません。でも、今、手に入れているものを存分に
生かして、何度でも方向転換が可能で、新しい夢を描き、新たしい出発ができ
ます。
だから、今の「満たされない心」に「これだ!」が降ってくるのを待ってみ
るのもいいのではないでしょうか。人生にはそういう時期も必要だと思います。
× × ×
久田さんの、深い人生観に基づいたなんと優しくすっきりした回答でしょう。
きっと相談の女性もそれを感じ、大いに気持ちの整理がつき、励まされたのだ
ろうと想像します。
人生には、いろんな悩みがあります、その悩みを乗り越えるために「芸術」
があります、などと哲学的なこと(ショーペンハウアーがそう言っている)を
述べたり、人生を充実し力強く生きるためには、何か「生き甲斐」をもつこと
です、などと人生論的なことを述べたりする人生案内もあるでしょう。
久田さんはそういう観念的アドバイスを捨て、相談者の心を適確に読み取り、
実際的な心の持ちようを、琴線に触れる言葉でアドバイスしています。きっと
相談者の心に「これだ!」というものが湧いてくる、頭上に「これだ!」とい
うものが降ってくることでしょう。あるとき、ふっと。
そうならいいなあ、と私は読みました。 (7/20 宮崎記す)