7月13日 How are you doing?
消費者行政・消費者団体活動のポイントは、消費者相談の充実である。消費者
の悩みごと・困りごと相談の手本は、新聞の人生相談である――。当欄でも繰り
返しそう書いてきた。読売新聞の「人生案内」における名答として先日、久田恵
さんによる相談内容を収載した。書かずにおれない名答だった。
今日は、同欄の7/13付の出久根達郎さんによる相談を収載する。一篇の小説を
読んだような読後感の、「歯切れ良い」明答である。出久根さんの小説風答えに
続き、私ならこう答えるという実際篇的アドバイス部分を一言添えたい。
出久根さんは古書店の店員から社会人をスタートし、古書店経営をしつつ作家
活動をし、直木賞を受賞された異色の小説家でいらっしゃる。店の奥からじっと
外の世界を、うごめく人間を観察してきたとでも言うような、深い人間観察眼・
洞察力をもって、人間と人間社会を見ていらっしゃる(と私は見ている)。そん
な作家の、一つの人生案内である。
× × ×
<相談>
50代男性。妻と会話のない日々が続いています。
結婚してまもなく私の母が病気になり、以後車いすの生活になりました。それ
から十数年間、妻は母の看病や通院の付き添いをほとんど一人でしてくれました。
妻は口うるさい母の八つ当たりに耐え、さらに娘の出産や育児と、大変な日々を、
愚痴も言わず手も抜かずに頑張ってくれました。私は独立して事業を始めました
が、その仕事も手伝ってくれました。
数年前、妻の父が病気になり、妻は通院に協力したいと相談してきました。私
は仕事が忙しく、自分の母親のこともあるので「実家のことは同居の妹さんに任
せろ」と答えました。妻は「少しは私の親のことも考えて」と言いましたが、「俺が
悪い人みたいに言うな」とどなりつけました。
それ以降、妻は必要なこと以外、私と会話しなくなりました。家事や仕事は、
以前と変わらずにやってくれますが、私を見る目は冷たいです。金銭的に困るこ
とのない生活をさせているし、実母も現在は介護施設にいます。なのに今の状況
は不愉快です。早く、元の優しく明るい妻に戻って欲しいのですが。
<答え>
奥様がどうしてあなたに冷たくなられたか。そして以前のような優しく明るい
妻に、どうすれば戻ってもらえるか。理由も方法も、あなたはご存知である。何
も私に聞くまでもない。
ではなぜこのようなご相談を寄せられたのか。自分の妻への意見は、正当であ
るか不当であるか、判断してほしいということでしょうか。まあ、少なくとも奥
様には不快だったわけですから、その限りでは正しいとはいえませんね。
いや、間違いとか正しいとか、そういうことじゃなく、あなたの考えが冷たす
ぎるのです。あなたは悪いことをしているとは、さらさら思わない。思わないこ
とが冷酷なのです。
あなたは健康だから、病人のつらさがわからない。しかし、病気をしたことが
なくても、つらさを知る人はたくさんいます。想像力と思いやりを持っているか
らです。あなたにはこれが欠けています。事業に成功したのは奥様がいたからで
す。その重要さに、まだ気づいていらっしゃらない。
× × ×
<蛇足の助言(私の。回答の字数にもっと余裕があればの前提で)>
数年前の、あなたの態度が奥様の心を閉ざしてしまったのです。すぐには閉ざ
された心を氷解させることはできません。彼女の優しい明るい心をあなたが取り
戻すには、やはりそれなりの長い時間がかかるでしょう。数年間かもしれません。
さあ、どうやって氷解作戦にとりかかるか。夫婦の会話がまったくないわけで
はないということに、糸口を見出しましょう。食卓で一緒に食事をするときなど
を捉え、仕事の話を持ち出し、「今日あるのは君のおかげだ」(お前と呼んでい
らっしゃるなら「お前のおかげだ」)と話しかけるように“つぶやく”ことから、
まず始める。そして次第に“話しかける”。さらに、「君のおかげだ、感謝して
いる」と話しかける。次に、感謝している仕事上の出来事を具体的に挙げて話す。
その間にも、仕事以外の、妻のおかげで助かったことを具体的に挙げて、「君
のおかげだ、感謝している」と話す。そのようにして妻の心をほぐしていくのが
良いでしょう。そして、折を見て、「君のお父さんのときは悪かった」と詫びる。
このプロセスを我慢強く続けることです。いきなり「君に話したいことがある。
あのときは悪かった、謝りたい」と切り出しても、効き目はないでしょう。態度
で示そうと、たとえ手をついて謝っても、やはりダメでしょう。
態度で示そうとするなら、やはり時間をかけて、反省しているというあなたの
気持ちを我慢して伝え続ける姿勢を示すことだし、母の日や彼女の誕生日とかに、
お詫びの気持ちが伝わる何かをプレゼントするのも一