10月16日 How are you doing
妻に勝てないものがある。クラシック音楽である。FMラジオから流れる
曲を聴いていて、「あれなんだっけ」と久しぶりに聴く曲名が思い出せず、
妻に聞くと、たいてい解決する。しかし上には上がいる。あの青島広志
さんである。ずっと前にテレビ番組で「イントロ当て競争」をやっていて、
青島さんの、どんな曲も始めの音が鳴るや否や正解を答えてしまう姿に
舌を巻いたものである。それで青島さんを一層身近に感じ好きになった。
来る22日、鎌倉の深沢支所ホールでわが「深沢混声合唱団」が発表す
る5曲中の1曲はオタリアの古曲「Vergin,tutto amor」(きよらのおとめ)
=F・ドゥランテ作曲=で、これの洒落た編曲を書いているのが青島さん。
わが井の中で尊敬している妻のクラシック・ワールドなど青島さんの足元
にも及ばないのだが、青島さんはいまや畏敬の存在。発表曲をせめて、
編曲者の感性を感じ取って歌わねば、と思っている。発表会は、いわば
公民館文化祭で、私にとっては10何回目の発表になるのだろうか。楽し
く歌う、がモットーの中高年混声。楽しさを聴きにきてください。
どの世界にも驚くべき才能をもった御仁がいる。つまり上には上、という
ことだが、机上において、努力目標にせねば、と思わされた人が拓殖大
学学長の「渡辺利夫さん」の新聞記事である。2ヶ月ほど前の日経新聞
夕刊「こころの玉手箱」というコラムの渡辺さんの記事(連載1回目)。
机上の記事が「書いてくれ」と言っているように思えて、今日書くことにす
る。記事の一部を以下に。ここから先を、ぜひ読んで下さい。
<(略)金銭に多少のゆとりを得た父は、5人の子供のうち1人くらいは名
のある大学に進学させたいと考え、その役が私に回ってきた。父方であ
れ母方であれ、血族の中に大学に入った者など当時は誰もいなかった。
荷の重いことではあったが、父の意に副わないわけにはいかない。
山梨英和学院に通っていた姉がテキストに使っていたサマーセット・モー
ムの『人間の絆』を私にくれた。初めて手にする英語の本である。こいつ
を読み込んでやろうと決意し、辞書が黒ずんでくるほどに引きつづけて読
み進むものの、内容がまるで伝わってこない。
しかし、数ヶ月の悪戦苦闘の末に、まったく突如としてモームの文章が豊
かな意味関連をもって頭の中にすーっと入ってくるではないか。勉強とは
こいうことなのかと思わされた初めての経験であった。モームの原書を東
京の丸善から取り寄せては読み、読んでは取り寄せていっぱしの文学少
年であった。>
渡辺さんの、この体験の凄さ。名著中の名著かつ大著中の大著『人間の
絆』をこのように自家薬籠のものとした人を知らない。2ヶ月ほども時間が
取れるとき、読み直そうと何度チャレンジし、忙しくて中座しているうち投
げ出すことが何度あったか。忙しい、とは「心」を「亡くす」こと。ダメだな。
そういう反省もあるものだから、手元に切り抜いておいている渡辺さんの
「モームの記事」である。
妻が5,6人のおばさん読書家たちと長らく続けている読書会の、妻が最も
畏怖していた超読書家のSさんが急逝されて何年経つのだろうか、明日
の命日にお墓参りをするので近くまでアッシー君をするよういわれている。
モームの『人間の絆』こそ、名著の最高峰と、Sさん以下みんなの意見が
一致していたと聞いている。いま集中の2か月が欲しいボクである。
(10/16 宮崎記す)