農業参入するイオンの戦略(8/25のシンポジウム速報)

『明日の農業を語る~消費者ニーズに対応した展開~』と題したシンポジウムが、
8月25日、東京台場の東京ビッグサイトで開かれました。パネラーは3人。うち
1人が、茨城県牛久市で近々野菜生産を始める流通大手のイオンの当該事業を担当
するイオンアグリ創造(株)の藤井滋生社長だということで、聞きに行きました。
「ムリ・ムダ・ムラをカットし消費と直結する物流を実現することで、消費者に
喜ばれ農業収益も高められる農業が展開できるはず。日本農業の将来は明るい」と
強調した藤井社長。パネラー3人のエキサイティングな発言を速報します。
 シンポジウムは、「第4回アグリフードEXPO 2009」(8月25日~26日)
(日本政策金融公庫主催)の一環で開かれたもの。パネラーのプロフィルは以下。

①(有)藤岡農産代表取締役・藤岡茂憲氏:秋田県北秋田市で水稲(あきたこまち
の独自ブランド「あいかわこまち」)を中心に43haを耕作。
 ②(株)サラダボウル代表取締役・田中進氏:銀行や生命保険会社勤務後に農業
ベンチャーを立ち上げ、地域の信頼を得て、10haの遊休農地を賃借しトマトなど
30品目を生産する。
 ③ 藤井滋生氏:イオンで長年、日本各地の産地との取引を行なってきた。

 シンポジウムは尾野村祐治氏(NPO法人日本プロ農業総合支援機構常務理事)が
コーディネーターとなって進められた。順繰りに発言されたが、ここでは1人ずつの
意見としてまとめて掲載する。

<藤井滋生氏>
 09年7月、地域の活性化と農業振興を目的にイオンアグリ創造(株)を設立した。
これから先20年で世界の人口は60億人から80億人に増える。こうした背景も見て
の行動である。茨城県牛久市内の遊休地2.6haにつき牛久市と賃貸借契約を結んだ。
隣接地へ拡大し3年後15haを目指す。農業の原点に立ち”畑から種から土から”の
農業というスタンスで、畑に何も残さず金に換えるという方針で臨む。農業GAP制度
(注:Good  Agricultural  Practiceの略。農産物の生産現場において食品の安全確保
に向けた適切な農業生産を行なうための管理のポイントを明確化し実施記録する制度)
に則ってやる。子供にも参加してもらう。今月から種まきを始め生産を開始する。
 この事業は料理研究家にも参加を仰ぎ幅広く展開する。世の中の仕組みが”縦の関係”
で固定されていてこれを壊す。日本の農業は肥料の使用量で世界一であり、硝酸体窒素
が貯まる一方(注:硝酸体窒素が野菜内に有害な硝酸塩=発癌物質=として残るという
問題。硝酸塩は野菜本来の美味しさを奪うとされる。古くから指摘されている過剰肥料
になりがちな化学肥料農業の弊害で、硝酸塩の野菜の残量を計る器具が「堀場製作所」
などにより製品化され、近年、消費者の関心も高まっている)である。大掴みに言えば
肥料の投入量は7掛けで済むのではないか。いまほとんどの農家が農業機械を個々人で
買い、その返済が重荷になっている。機械をレンタルするといったプランの変更が必要だ。流通のトラックにもまだ空便が多い。これらのムリ・ムダ・ムラを排除すれば、優秀な
技術をもつ日本農業は世界に勝てる。
イオンの農産品の取り扱いは輸入を含めて約4割が市場外流通である。いろんな分野
のポジティブシンキング(肯定的思考)をする人たちと一緒に怒涛のごとく攻める農業
をしないといけない。農家サイドの問題で言えば、あくまでも再生産可能な価格を維持
すること、それと、適地適作主義を大事にしたい。過当競争を排除し、生産者も流通も
お客さんもみんながハッピーになるよう取り組む。
 生産コスト、流通コストなど一切のコストをどう下げるか、これから詰める。例えば
畑でコンテナに入れて収穫したものがそのまま店まで行き、そのまま消費者の前に並ぶ
ことが可能になれば、大きなコスト削減になる。縦軸を一度切って横軸で再編すること
が大事だ。横軸で関係者が情報も経営も資本も提携することだ。人作りを重視しながら
いい事例を各地に作って水平展開することで、2020年の食料危機はクリアできる。
※    注:イオンアグリ創造と牛久市の土地賃貸借契約は「特定法人貸し付け事業制度」
に基づく、この制度は、耕作放棄地解消と担い手育成などのために、農業生産法人以外
の法人に対する農地の貸付を可能とする農地法の特例措置。企業がこれでリース方式に
よる農地の権利を取得できるようになった。(注は、いずれも宮崎による)

<藤岡茂憲氏>
 コメの価格は下がる一方だが、うちでは1俵(60kg)平均24,000円で売っている。
農業生産法人は製造業だ。製造原価を割って販売しては絶対いけない。プリウスを見れ
ば分かる。コメは買い叩かれてきた。もっと経営を大事にしないといけない。そのため
にうちでは4月に種まきする前に、販売単価と量を決めて種をまく。そして足を使って
汗をかいて営業する。利益を出す仕組みをきちんとつくることだ。規模拡大などはその
後のことだ。
今年のコメの作柄が心配されている。ここしばらくの間の天候が決め手になるだろう。ただ平成5年のような凶作にはならないと思う。農協扱いの米価は昨年1俵13,800円
だったが、これでは再生産できない。再生産できないなら、生産を止める。安かったら、
売らない。そう決断することが生産者にとって必要だ。それがポイント。次に、消費者
はコメが高いなんていうのは10年早い。作らない人が価格をウンヌンしては間違い。
 生産現場と消費者が離れている。その責任はまず生産者にある。生産者は客にコスト
や米価についてきちんと説明してきたか。きちんと説明すれば、客は高くても納得して
買うだろう。客の満足度が大事だ。物を売ってお金下さいというのが恥ずかしい生産者
が秋田にはまだ多い。これではいけない。
もう一点。流通の専門家が生産してくるのもおかしい。生産者がバカにされている感
じだ。流通は安売り競争を煽るばかりで、生産者を育ててこなかった。生産者が再生産
できる方法をとってきたか問いたい。
 農業政策は実に猫の目行政だ。それが当たり前と思っていた方がよい。新しい政策が
打ち出され、それがいいからとみんながやることになっては、いいはずがない。政策に
遅れてやるぐらいがちょうどいい。農業政策に惑わされないことだ。会社を活性化させ
るには、還暦近い自分などが早く止めて、若い人がやることだ。最近は農業への女
性の
参入が目立ってきたが、これも活性化にはとても有効だ。

<田中進氏>
 山梨の農家の次男。小さいころは農家に生まれて恥ずかしいと思っていた。銀行など
に務めていて「農業は面白い」ことを知って、平成16年に農業生産法人((株)サラダ
ボウル)を作り農業を始めた。地元スーパーにサラダボウル・コーナーを設けて売って
もらっている。全国から昨年は約100人、今年は200人から300人のペースで研修生
がやってきている。
ド素人20人で経営している。5期目だが、1年目から赤字は出していない。行程管理
などを作りながら、一番古い仕事を一番のフロンティアとしてやっている。「農業は日本
を救う」などと言われるが、物作りとしてこんなに面白いものはない。今後も着実に続
く産業だと思っている。アカデミックであり、クリエイティブであり、カテゴリーが広い。
どんどん新しい人に参入してもらいたい。子供が農業を継げるような形にしていきたい
と思ってやっている。             (8月26日。文責:宮崎)