桑の葉茶・冬虫夏草を健康食品にした学者のこと

2月21日 NPO食と農と健康、では医食同源研究に懸命に取り組んでいます。国民医療費が40兆円を超えたいま、認知症もガンもあらゆる病気を可能な限り、予防すること、さらに言えば健康を創ることが私達に課された大命題です。そのための研究です。最前線の情報を専門家からキャッチし、世に示し実践を目指します。岩手大学の鈴木幸一先生が私達”食農健康”運動家に珠玉の情報を開示して下さいました。エビデンスはっきりのとっておきの講演内容を以下に--。(これまで5回の講演会を開催。第1回は既報。第2回以降を順不同にアップロードします)

【「食と農と健康を見直す~医食同源研究会~第5回研究会」鈴木幸一先生講演録】

■日時:16年2月2日14:00~16:00 (於 港区南青山のウィン青山ビル内「カフェクルー」) ■演者:岩手大学・鈴木幸一特任教授(農学博士) ■演題:「食べる桑・シルク・冬虫夏草による養蚕イノベーションと地方創生」 ■キーワード:わが国養蚕の新戦略・医療費削減の切り札・健康寿命延長・地方創生など

 <蚕の研究一筋45年・・・・・・蚕と冬虫夏草が新しい産業になろうとしている>

■  私は4年前に岩手大学を退官したが、いまも大学の鈴木ラボで研究を 続 けている。45年ほど蚕を研究テーマにしている。冬虫夏草はご存知だと思うが、キノコの1種であり、約400種ある。山へ行って取ってくるのだが、その菌を蚕のサナギに植え付けて繁殖させ安定供給出来るまでになっている。最も利用価値の高いのが福島にあった。ハナサナギダケという種類だ。いろいろ分析し調べたところ、ハナサナギダケの成分がマウスの実験で、老化した脳の働きを回復させることが分かった。研究を進めていて、新薬開発の可能性も大きいと確信している。人の認知症などの改善や予防、ガンの治療や予防の効果も期待できる。国民医療費がすでに年間40兆円を超え、年々膨張していく中、良い機能性食品や新薬が誕生すれば、医療費削減にもなり、養蚕が”非繊維産業”という新しいビジネスになるはずである。中国産の天然の冬虫夏草はいま1kg500万円から1000万円する。そうした点も視野に入れTPPなど恐くないという新しい農業・新しい産業を育てて行くことだ。

  • 正月に私は住まいのある盛岡市から車で30分ばかりの紫波町の神社(志和稲荷神社)に家族で初詣にいくことにしている。そこには、臨済宗の創始者・栄西禅師の書『:喫茶養生記』の一節にある「桑は諸病を治す妙薬であり、服すれば長寿無病が得られる」という趣旨の言葉が、桑のご神体のわきの看板に書かれている。衝撃的な言葉だ。教科書にはそんなことは1行も出てこない。日本では桑はずっと蚕のエサでしかなかったのだが、実は、桑は人が食べるトップクラスの作物ではないか! と私は思っている。
  • 地球上には100万種以上の昆虫がいる。余談だが、ジカ熱を媒介する蚊もその1種。それはさておき、昆虫を生かす産業の1つが養蜂だ。養蜂業者は全国に沢山いて、年商1000万円~2000万円の事業を展開していると推定されるが、ご存知の「山田養蜂場」は岡山県鏡野町にあり、年商450億円だ。町人口は15000人で、1000人を雇用している。創業した初代社長は昨年他界したが、60年でこれだけ大きな昆虫産業になった。蜜蜂産品は初めデパ地下で売っていたのを通販に切り替える戦略で成長軌道に乗ったという。山田養蜂場のビジネスの知恵、という点に注目したい。ビジネスのコンセプトは一貫して「予防医学」だ。そのための先端的研究に山田養蜂場は年間1億円の研究費を出していて、私はこのファンドの審査に参加している。外国の科学誌『ネイチャー』や『サイエンス』に広告を出すと、外国からも応募が来る。昆虫産業が注目されている一面がここに見える。蚕に期待している私の思いは膨らむばかりだ。

 <20世紀は、桑のブラックボックスの時代→21世紀は養蚕イノベーションを興すとき>

  • 冬虫夏草は先に話した通り、ハナサナギダケが優れた効能を持っている。それを商品化したのが福島県南の棚倉町の有志グループで、「東白農産企業組合」を作り、冬虫夏草の粉末を健康食品として売り出している。15年7月5日に、TBSの番組「夢の扉」でそのことが放送された。冬虫夏草の成分が脳細胞に働きかけ、認知症の予防・治療の効果が期待できるし、それで医療費削減にもつながるという、私達の研究成果を伝える内容だった。ハナサナギダケという冬虫夏草を蚕のサナギで増殖させるのがベースだ。桑を固定的に蚕の餌としてでなく、発想を変えて活用し、桑→蚕のサナギ→冬虫夏草→健康食品→薬品という展開を図れば、栄西禅師の言う“桑は不老長寿の妙薬”という言葉通りに、桑を含めた養蚕産品で新しい産業になる、というのが私達の考えだ。
  • 昆虫は地球上に100万種もいる。人類はこの昆虫を活用しなければならない。その成功例が蜜蜂産業の「山田養蜂場」だ。同社を宣伝するつもりはない。そう断わって一言付け加えると、同社はいま二代目が社長になっているが、通販を取り入れて大きく成長している。「予防医学」を旗印にしていて、そこが立派だ。私に言わせれば蜜蜂にとどまらず、別の昆虫に目を向ければ、蚕でも新しい事業が出来るのではないかということだ。歴史をひも解けば、1910年ごろ日本国は何で稼いでいたか? 蚕である。貿易額の52%を絹糸が稼いでいたのだ。
  • NHKの東北版の番組でも取り上げられた映像を見ていただきたい。これは2010年の映像で、これが老化したマウスの脳であり、海馬に糸くずのような線が入っている。海馬は、人間も同じだが、ものごとの記憶に関わっている。糸くずのような線が入ると、認識力や神経の伝達に障害が出る。その障害をもつマウスを使ってある実験をした。蚕の乾燥蛹で培養した冬虫夏草から、漢方薬のセンブリやドクダミの抽出物を作るようにして抽出物を作り、抽出物をそのマウスに体重1kg換算で5 mg と25 mgを与えたら、糸くずのような線が消え認識力が著しく回復した。もう1つ、プールでマウスを泳がせる実験をした。プールの特定の位置にプラットホームを沈めて、その場所を記憶させる。その後で、このプラットホームを除去すると、正常なマウスはプールのプラットホームを設置した場所を回るが、糸くずの線の入った脳のマウスは、プール全体を回るだけだ。しかし、このマウスに例の抽出物を与えると、ほどなく設置場所を回る。すなわち空間認識が出来た、認識力が回復したのだ。
  • 私達は、この抽出物からX物質を発見した。これを人が食べると、腸を通って身体に吸収され、壊れた神経細胞を修復するというメカニズムを明らかにした。あとは論文を書くだけだ。私達はいまこの抽出物によるサプリメントを作ろう、さらに医薬品を作ろう、と研究を進めている。福島県の棚倉町は昔は養蚕が盛んだった。そこの有志グループが「東白農産企業組合」を研究実践の拠点として位置づけている。組合では、地元の山から野生の冬虫夏草を取ってきて、胞子を蚕に植えつける方法で“野生の蚕”を安定生産する態勢を作り上げている。棚倉町はかつて盛んな養蚕地帯であったが、その後、養蚕はすたれ、若者の流出も止まらない。そんな中での「組合」の起業であり、みんなが「新しい産業を興す」と張り切っている。

 <92歳が冬虫夏草のサプリメントを飲み、3ヶ月で小銭の勘定力を回復させた>

  • いま認知症の薬として世界でもっとも使用されているのがアリセプトだ。もう特許は切れているが、一時期は6000億円の売り上げがあるといわれる。でも、これは50人に1人程度、認知症の進行を遅らせるというものだ。TBSの番組でも紹介されたが、認知症にかかっている92歳の熊谷さんが、病院で560円の診療費を支払う際、小銭入れから出そうとして、小銭はそろっているのに560円を取り出せず、1万円を出してしまう状態だった。その熊谷さんに、私達の研究成果に基づいたサプリメントを、すなわちまだ医薬品ではない健康サプリメントの段階のものを3ヶ月飲んでもらったら、ちゃんと小銭を計算できるまでになった。凄い効果だ。早く医薬品にしたいと私達は懸命に努力しているところだ。

 <日本のレアプラントを作り、世界2位の農業国オランダを目指せ>

  • 日本のレアプラントを作りたいと思っている。日本の自然・山野・農業の中から見出す素材で、つまり海外からでなく、日本にあるものに付加価値をつけて日本で生産する、という体制を作らないといけない。オランダはアメリカに次いで世界第2位の農業国で、パプリカなどをブランド化している。九州ぐらいの小さな国土だけど、シリコンバレーでなく、国を農業の情報と技術の集積するフードバレーにしている。その情報で、桑は“天然の強壮剤”と称されている。日本ではかつてシルクの生産に関わっていた養蚕農家が200万戸以上もあったのにいまでは500戸を切っている。そして繭は1kgが補助金漬けで2500円ぐらいだ。養蚕を違った角度から見直して新しい産業にしないといけない。そして次にはイネ、果樹もイノベーションをしないといけない。TPPなんかがあってもびくともしない日本農業をオランダに見習って構築しないといけない。
  • さっき知り合い3人で昼食にカレーライスを食べた。データとして知られているが、その時にご飯に、桑の葉粉末0.8gを振り掛けて食べたとすると、30分後に血糖値を調べれば、全然上がっていない。ところが何もしないで食べた人は170mg/dlぐらいに上がる。血糖値が正常な人でも誰でもがそのくらいに上がる。Ⅱ型糖尿病の人はもちろん、日本人は欧米人に比べて膵臓から出る生涯のインスリン量が少ないので、炭水化物を食べると膵臓に負担をかけることになるが、1976年に桑の葉に血糖値を抑える物質が含まれていることを発見した人がいる。八木先生という人で、その物質はノジリマイシンという。最近、認知症に効く、抗加齢の効果があるとされる。抗加齢で言うと、パウダーでは寿命が17%アップ、純正品では32%アップするというデータをわれわれは持っている。桑の凄い点の1つだ。桑はまたカルシウムを牛乳の25倍も豊富に含んでいる。凄いことだらけだ。

 <桑が、年間40兆円を超える日本の医療費削減に貢献する道筋が見える>

  • 1211年に、栄西禅師が『喫茶養生記』の中で言っていることを、800年経って、日本は証明している。ただ科学的に証明しているだけだ。栄西禅師は「桑は甘いおしっこにいい」、つまり糖尿病にいいと言っている。ノジリマイシンがそのことを証明したわけだ。本家本元の発見を日本では生かさないといけないが、現状は宝の持ち腐れだ。医療費が年間40兆円を超え、1年に1兆円ずつ増える見通しなので、私が75歳になる2025年には54兆円に膨らむ。このままではトシ取るのが罪悪、ということになる。そんな皮肉なことではいけない。
  • もう1点、日本人の発見で素晴らしいと思うのは、もう亡くなったが、平林潔先生だ。食べるシルクの方向付けをした。シルク(生糸)を塩酸でぐつぐつ煮た。特別高度な実験でも何でもなく、塩酸で煮て、それをパウダーにした。するとシルクの蛋白が酸加水分解されるわけだが、これに3個のアミノ酸、グリシンとアラニンとチロシンが豊富に含まれていることが分かった。そしてそのパウダーを食べるというユニークな利用法を考えた。マウスのモデル実験によると、髪の毛の表面が、老化するとデコボコしてくるのに、若い人の髪のようにキューティクルでつるつるしたものに若返った。コラーゲンが皮膚をつるつるさせるのと同じ効果であった。繊維となるシルクから、言うならば“食べる化粧剤”を作ったわけだが、私達はそれに留まらず、認知症の薬にもしようと目論んでいる。いままでの行き方とまったく違う、非繊維型のイノベーションである。必ずやそれを興したいと思っている。2011年から科学研究費を得て研究を本格化させている。
  • 養蚕はいままではファイバー(繊維)だけだったが、平林先生のおかげで私達は「食べるもの」として蚕を利用し商品開発ができるようになった。先ほどの話と重複するが、最初は岩手県の北上市からのスタートだった。志和稲荷神社の看板からアイデアを得て始めた私の研究を地元紙が取り上げ、<鈴木が桑食文化を提唱し研究に取り組んでいる>と平成20年の1月4日付の社説で紹介した。それを読んだ北上の地域住民4,5人がすぐ私を訪ねてきて、桑の葉茶の事業に取り組みたいと言うので協力することにした。間髪を入れず、彼らは中古の製茶機械を借用して事業を始めた。それが今では、北上市の名産として県内外に広がっている。一方、青森県の八戸市では、「南部桑茶」という商品名で売り上げを伸ばしている。米国のシアトルでも売っているそうだ。そのほかこの動きは多方面へ広がっている。先日、横浜シルク博物館名誉館長で異文化コミュニィケーターのマリー・クリスティーヌさんがマスコミで話題提供してくれた。仙台の藤崎デパートでは「桑チョコ」が.昨年、スイート分野でNo.1の売り上げだったそうだ。栃木の那須塩原市では異業種から名乗りを上げた会社が野生の蚕で“食べる養蚕”事業を始め、静岡の松崎町ではカリントウに桑の葉を入れたり、また国家戦略特区に指定された兵庫県養父市にも伝播するなど、急速に広がりつつある(非繊維型養蚕事業の広がりを一覧表にしたのが次の写真)。 

コピー ~ クワの全国マップ決定160221幕末に海を渡った養蚕書の著者に、養父市の上垣守国がいる。1803年に彼が書いた『養蚕秘録』という養蚕指導書がフランスに渡っている。極東の日本の養蚕が一番いいとされたこの本は、シーボルトが本国オランダに持ち帰って、フランス語やイタリヤ語に訳された。そして1803年著作のその本をフランスのパスツールがテキストにしたそうだ(『幕末に海を渡った養蚕書』、竹田敏著、東海大学出版部)。その100年後に、日本のシルク産業が確立され、日本が世界のシルク産業の拠点になる。さらに100年後、日本の養蚕はすたれてしまって、富岡製糸場が世界遺産になった。これでいいのか? 私達には新しい使命があるのではないか? 養蜂も養蚕もその技術は特殊だ。何度も言うように往時200万戸以上もあった養蚕農家が500戸を切ったいま、このまま行ったら、桑を栽培する技術も蚕を育てる技術も途絶えてしまう。国は蚕に関しては、遺伝子組み換え体の蚕の作出を主に研究しているが、それだけではダメだ。やっぱり養蚕イノベーションを本気でやらないといけないと思う。

 <私の食事は野菜・蛋白・炭水化物は2:2:1の割合、桑の葉茶を朝昼晩に>

 (別項で掲載します)

 <FAOは「昆虫を食べよう」とメッセージ>(以下は、質疑で明らかにされたこと)

**冬虫夏草は400種以上存在し、福島県南部の山で取ったハナサナギダケがいまのところ最も有効で、それを福島県棚倉町の「東白農産企業組合」が製品化し、「冬虫夏草」の名前で健康食品として販売している。30日分で12740円である(参加者の1人がネットで確認)。**岩手県北上市の更木地区では学校給食で桑の葉もメニューにあり、想像によると、DNJ(1-デオキシノジリマイシン)の効果で子供たちが風邪を引かず、近隣の小中学校がインフルエンザで学校閉鎖や学級閉鎖されても、更木は無縁。行政もコミットしているという姿だ。

**鈴木先生が主張する。「桑や冬虫夏草のイノベーションにより、小さな町村、小さな地域で、例えば1億円規模の産業を興すのはそう難しいことではない。全国各地でそうした成功例が出来るように仕向けたい」

*兵庫県養父(やぶ)市は2014年3月に国家戦略特区に指定され、中山間地の農業における改革拠点としてさまざまな改革が進められている。桑畑の造成にも乗り出していて、「五平餅」に桑葉をまぜた食べ物をり、“やぶくわ棒”とネーミングしブランド化を狙っている。

**鈴木先生が主張する。「桑を食べ物として活用する“桑食文化”をなんとしても普及させたい」。**蚕の有用性は多岐に渡り、群馬県中之条町では桑の葉をニワトリに食べさせている。

**アメリカではシイタケエキスに保険の適用が効く。国による文化の違い規制の違いがある。**これからは様々に“医農連携”、あるいは“農福連携”(農業と福祉)が必要。**昆虫は食糧でもあり、FAO(国連世界食糧機関)が「昆虫を食べよう」とメッセージしている。**銀座で蜜蜂が飼われ養蜂が可能となっている。東京23区に桑畑が現れるといい。      (文責:「NPO食と農と健康」宮崎)